Vol.70 Nov./Dec. 2021

Vol.70_Hyoshi
特集◎COP26と気候変動外交

カーボンニュートラルの実現に向けて
気温上昇を抑えるためCO2排出を減らす。科学者から政治家に出された「重い課題」が国連気候変動枠組み条約だ。国家のパワーに直接影響する議論の紆余曲折の確認が、大きな転換点、COP26の理解につながる。
山田高敬(名古屋大学)

グラスゴーで何が決まったか-COP26の成果と課題
目標達成のラストチャンスともいわれたCOP26。世界に危機感が人がるなか、「1.5℃目標」を世界全体で確認し、まずはスタートラインに立った。各国「有志連合」の自主的宣言の活用のみならず、今後は民間・自治体の役割がより一層求められる。
亀山康子(国立環境研究所)

中国・気候変動対策の深慮遠謀-国に政策あれば、企業に対策あり?
2060年までのカーボンニュートラルに向け、国内ではトップダウン目標と各部門の対応策の「1+N」政策をとり、対外的には多国間協力と南南主義で世界のリーダーシップを狙う中国。政策と投資の「両輪」は、うまく回転するか。
染野憲治(早稲田大学)

巨大新興国インド 脱石炭への高いハードル
COP26で初めて数値目標を掲げたモディ首相。他の主要新興国に比べても抑制的な目標だが、それでも実現への道は険しい。インド経済の石炭依存の実情と背景を明らかにするとともに、再生可能エネルギー普及の条件を探る。
福味 敦(兵庫県立大学)

サウジ皇太子COP26欠席の背景
新たな気候変動対策を打ち出したサウジだが、先進国との温度差は依然大きい。さらにムハンマド皇太子に対する米国の不信感もあり、COP26では存在感を示せなかった。サウジの気候変動対策イニシアティブは継続するか。
近藤重人(日本エネルギ経済研究所中東研究センター)

欧州ガス価格高騰の構図-地政学とポストコロナのエネルギー情勢から読み解く
欧州でじわじわと広がるガス価格高騰への懸念。背景には、ノルドストリーム2をめぐるロシアの戦略と、ポストコロナを見据えた世界的なガス・LNG需要の拡大がある。トランジション・エネルギーとして有用なLNGの安定供給を踏まえた、現実的な脱炭素プロセスを考える。
白川 裕(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

FOCUS◎習近平体制3期目への布石

対談
中国「歴史決議」の射程-人事・経済・台湾
毛沢東・鄧小平と並ぶ存在として、歴史に位置づけられた習近平。来年の共産党大会を見据えた人事戦略を踏まえつつ、「党が歴史を作る」構造の背景と、その政治的含意を探る。
高原明生(東京大学)
川島 真(東京大学)

恒大集団経営危機はブラック・スワンになるか
中国を歩き回る「灰色のサイ」(不動産バブル)が、ブラック・スワン(破局)に変身する日は来るか。さまざまなデータから、恒大グループ経営危機が中国経済と社会構造のゆがみを映すことを読み取り、「第2のリーマンショック」が起こるかを考察する。
齋藤尚登(大和総研)

民主化の基盤を破壊した香港「愛国者統治」
2020年の香港国家安全維持法制定・施行以来、香港では民主化運動指導者・参加者の大量逮捕が続いた。その後も運動の基盤の解体が進み、民主派団体の解散、指導者・幹部の逮捕が相次いでいる。香港の統治は、民主派は、いまどうなっているのか。
倉田明子(東京外国語大学)

中国・台湾のCPTPP加入申請と日本の対応
-高水準なルールを維持したFTAAP形式に向かう戦略
中・台の「さや当て」のなか、目的地のFTAAPに到達すべく、日本は自ら推進してきたCPTPPの米国のTPP復帰が期待できない想定で、CPTPPの自立的な執行メカニズムの構築を目指せ。
川瀬剛志(上智大学)

「法人税最低税率15%」のインパクト-国際課税のグローバルガバナンスをめぐって
軽課税国を使った多国籍企業の租税回避に対し、ついに国際課税改革のメスが入った。課税権の再配分、税率の下限の「2本柱」とは何か。利害の異なる各国は、どのようにまとまったか。低税率で企業を誘う「租税戦争」はこれで収束するのか。
吉村政穂(一橋大学)

around the world

政権に近い有力者を指名 米国の駐中国・駐日本大使
秋元諭宏(笹川平和財団)

ASEAN連結性から見たミャンマー情勢
梅﨑 創(アジア経済研究所)

ウズベキスタン、ミルジヨエフ大統領再選で問われる改革
岡田晃枝(東京大学)

イラク国民議会選挙 既得権益に挑む新党の誕生
吉岡明子(日本エネルギー経済研究所)

難民で欧州を揺さぶるベラルーシ
服部倫卓(ロシアNIS貿易会)

トレンド2021

タリバンは自己改革による統治ができるか
自己改革による統治を世界に公約するタリバン政権。国際社会での地位獲得のため妥協を見せているが、イスラーム法による国家の再興という大義やISIS-Kの圧力などの前に、統率力を弱めかねないジレンマとして苦しめられている。
田中浩一郎(慶應義塾大学)

中国の対アフガニスタン連携とその実像
中国のアフガニスタンに対する「建設的介入」は、反テロや一帯一路構想の一環であり、タリバンにとっても生命線の一部をなす。しかし中国をターゲットとしたテロも散発。今後の対アフガン外交への影響はどうなる。
廣野美和(立命館大学)

なぜ豪州はAUKUSを選んだか-対中脅威認識とアメリカへの不安
米英豪によるAUKUSの枠組みが発表され、オーストラリアは、原子力潜水艦の共同開発に踏み切った。突然の方針転換に、関係国はその真意をいぶかしがるが、背景には同盟国アメリカ「継続的関与」への不安がある。英国の果たす役割や周辺国の懸念を踏まえ、その内実を読み解く。
永野隆行(獨協大学)

メルケル外交の16年を回顧する
ドイツに安定と繁栄をもたらしたプラグマティズム
メルケル外交は変幻自在だ。ユーロ危機、対中外交など、自国経済優先ふるまいを見せる一方で、国際世論の動向を見極めて、最後は欧州統合、民主主義重視の多国間主義へと着地する。「ドイツひとり勝ち」の状況をもたらしたメルケルの外交手腕を検証する。
中村登志哉(名古屋大学)

流動化するアフリカ情勢1
内戦拡大の危機迫るエチオピア-ティグライ戦争1年の評価
東アフリカの大国エチオピアが揺れている。かつて与党の中心にあった北部のティグライ人勢力が、アビィ政権と対立を深め、当初は地域限定的だった紛争が、次第に全土化の様相を呈してきた。いま何が起きているのか、内戦の構図と経緯を解き明かす。
眞城百華(上智大学)

流動化するアフリカ情勢2
岐路に立つスーダンの民主化プロセス
独立以来、何度も民主化を模索してきたスーダン。民主化のプロセスを再び歩み始めた矢先の今年10月、国軍が実権を掌握し、停滞を余儀なくされた。今回の騒擾の背景を踏まえ民主化の課題を考える。
坂根宏治(国際協力機構)

流動化するアフリカ情勢3
追悼 デクラーク元南アフリカ大統領
アパルトヘイト廃止の英断とその先の課題
ネルソン・マンデラと力を合わせ、南アフリカの新しい民主主義を構築した指導者が亡くなった。彼の業績を振り返るとともに、「マンデラ=デクラーク」後も続く同国の課題-。成長と再配分をめぐる政治の苦闘を描き出す。
白戸圭一(立命館大学)

追悼 パウエル元米国務長官
超大国の責任と倫理を背負った誇り高き愛国者
加藤良三(元駐米大使)

連載

インフォメーション

数字が語る世界経済32
中国WTO加盟から20年
世界貿易に占める中国のシェアは13.1%(2020年)に拡大
伊藤信悟(国際経済研究所)

外交極秘解除文書 連載4
1989年・天安門事件と冷戦終結前夜
若月秀和(北海学園大学)

ブックレビュー
大庭三枝(神奈川大学)

いまを読む5冊
評者:
池部 亮(専修大学)
長谷川晋(関西外国語大学)

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英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト