Vol.68 Jul./Aug. 2021

Vol68_Hyoshi
巻頭インタビュー
「戦略的自立性」と「戦略的不可欠性」の確立は急務
-DX社会を見据えた経済安保戦略
甘利 明(衆議院議員)

特集◎「経済安全保障」の射程

現代的経済安全保障の論点
国民の安全と国家の価値を守るため、国家戦略の要に躍り出た「経済的安全保障」。だが、戦略的産業の完全な国内化は現実的ではない。グローバル・サプライチェーンの中で、技術的に不可欠な存在だと認められることが重要だ。
鈴木一人(東京大学)

経済安保論が招きかねない「自由貿易体制」の崩壊
米国の「ハイテク冷戦」政策、人権問題とのリンク、中国の半導体国産化政策-。米中、さらに中国と西側の相互不信は自由貿易体制を急速に縮小させている。「貿易立国日本」はその下でも生きていけるか。
津上俊哉(日本国際問題研究所)

識者が語る経済安全保障の諸相◎貿易管理
ルール作りの要諦は日本企業のリスク最小化
コロナを引き継いだ国際貿易管理レジーム、ワッセナー・アレンジメント。通産省輸出管理課長として協定の立ち上げに関わった細川氏が、ルール作りの舞台裏を語る。
細川昌彦(明星大学)

識者が語る経済安全保障の諸相◎中国企業
中国企業にとっての「チャイナリスク」
セキュリティで「総体安全国家観」、経済で「双循環」。内需を軸に産業構造を転換し始めた中国は、デカップリングを受けさらに先鋭化させた。それが中国企業の「リスク」にもなっている。
高口康太(ジャーナリスト)

東アジアの経済安保のカギ握る半導体の覇者TSMC
世界最先端の微細化技術を駆使し、半導体ファウンドリーの巨人として君臨するTSMC。米中対立下に「米国陣営」入りを決めたが、その動向は、半導体産業のみならず、今後の国際政治経済をも左右しそうだ。
山田周平(日本経済新聞社)

経済安全保障とイノベーションは両立するか
イノベーションは先端科学技術を製品や収益に最短距離で結びつけることから、国家間対立のフロントラインとして脚光を浴びる。GAFAや中国のBATのプラットフォームの下で経済安全保障体制を作ることは可能なのか?
元橋一之(東京大学)

FOCUS◎鼎談
中国共産党結党100年 歴史の中の習近平政権
個人への権力集中を進めてきたとされる習近平総書記。だが、その政策には数十年のわたり続く改革開放と「党内民主」への模索が深く刻印されている。記念式典での習演説を手がかりに、その歴史的連続性と変容を読み解く。
宮本雄二(元中国大使)
岡嵜久美子(キャノングローバル戦略研究所)
川島 真(東京大学)

「情報独裁国家」統治のかたち-中国・産業政策と民営企業
国家の統治手段に「情報」を用いる中国。健康コードで個人情報を徹底的に管理・利用し、SNS検閲によって世論誘導を図る一方で産業政策では法制度を整備し遵法性を担保する。「権威と遵法」のハイブリッド国家はどこへ向かう?
梶谷 懐(神戸大学)

around the world

大統領選から1年
ロシアに傾斜するベラルーシ
服部倫卓(ロシアNIS貿易会・ロシアNIS経済研究所)

アサド四選後のシリア
青山弘之(東京外国語大学)

エルサルバドル ビットコイン法定通貨化
笛田千容(駒澤大学)

ペルー大統領選と急進左派政権の課題
村上勇介(京都大学)

中・東欧諸国で加速する中国離れ
東野篤子(筑波大学)

東京2020へのメッセージ

いまこそ国際社会の連帯を示すとき
新型コロナウイルスの世界的感染が収束しない状況での開催となったこの大会は、世界に向けて何を発信できるか。三年後の夏季オリンピック・パラリンピック開催国であるフランスのセトン駐日大使が、東京大会の意義とこれからの国際協力の方向性を示す。
フィリップ・セトン(駐日フランス大使)

難民選手団が人々の心を揺さぶる-スポーツのチカラが示す難民支援の道標
厳しい環境の中でオリンピック・パラリンピックに参加する難民選手団。その姿は世界に感動を与えるだけでなく、コロナ禍で悪化する世界の難民状況や、それゆえに求められる連帯と包摂性の大切さを、私たちに教えてくれる。
カレン・ファルカス(国連難民高等弁務官事務所)

◎トレンド2021

G7再結束のインパクト-「民主主義国の連帯」と中国問題
6月11日~12日、2年ぶりに対面での開催となったG7サミット。バイデン大統領、ジョンソン英首相がリーダーシップを発揮し議論が展開されたが、重要な論点の一つは中国だ。アジア諸国が参加したアウトリーチにも注目が集まる。
兼原信克(同志社大学)

「中間層のための外交」とは何か-「トランプ主義」の影つきまとうバイデン政権
外交政策で中間層の裨益を目指すバイデン政権。だが、対中競争や同盟関係が中間層に及ぼす影響をめぐり、板挟み状態に。米国民の信任を得られるかが、バイデン外交の成否を分ける。
ジェームズ・ショフ(カーネギー国際平和財団)

イラン大統領選挙と核合意のゆくえ-膠着するウィーン協議に打開策はあるか
経済苦のイラン市民は、保守派指導者を選んだ。候補者資格審査で改革派有力候補を落とすなど、「体制」の維持・継承のための選挙といえる。核合意交渉に復帰しながら制裁下でも自活の道を探る新政権の、アメリカや国際社会との関係は。
青木健太(中東調査会)

イスラエル8党連立内閣の不安定な船出
イスラエルで新政権が発足した。反ネタニヤフを旗印に終結した8党連立内閣で、アラブ系政党の参加や首相のローテーション(2年後の交代)など、政権成立までの苦心の跡がみられる。今後、政局の安定に向けたベネット首相の指導力が問われる。
江﨑智絵(防衛大学校)

ミャンマー問題 ASEANの蹉跌-交渉失敗の原因と今後果たし得る役割を探る
ASEAN首脳会議の「5原則コンセンサス」をミャンマー軍政当局は無視、ロシアとの関係を強化し政治的正当性を確保した。ASEANは交渉での数々のミスを挽回し、ミャンマーの混乱拡大を停止できるか。
相澤伸広(九州大学)

国際保健ガバナンスは向上するか-WHO改革と途上国ワクチン接種
ワクチン接種で新型コロナ対策は新たな段階に。国際保健ガバナンス体制をどう改善するか、ワクチンの知的財産権放棄の議論の行方は、パンデミック条約は策定・締結されるか。科学と政治を整理してのWHO改革の可能性は。
武見綾子(東京大学)

第9回太平洋・島サミット
太平洋島嶼国の課題と日本の貢献
地理的なハンデで産業振興が難しい太平洋島嶼国。この地域でも中国の影響力拡大がみられる中、島嶼国は債務の罠を回避し、主権を保持する必要がある。日本に求められるのは、制度の整備への協力を通して、持続可能な開発を支援することである。
畝川憲之(近畿大学)

「ウイグル問題」と関わり続けて(完結)
ウルムチ事件での衝突以来、中国政府の締め付けは、習近平政権でさらに苛烈なものに。救援のために奔走する筆者が見たその実相とは。国際社会や日本は何をすべきなのか。
水谷尚子(明治大学)

連載

数字が語る世界経済30
中国上場企業向け政府補助金は10年間で5.3倍に増加(2020年)
伊藤信悟(国際経済研究所)

外務省だより

外交極秘解除文書 連載2
1989年・天安門事件と冷戦終結前夜
若月秀和(北海学園大学)

追悼 ベニグノ・アキノ3世前比大統領
法の支配を体現した指導者
高木佑輔(政策研究大学院大学)

追悼 ラムズフェルド元米国防長官
1960年代からの「日本ファン」
加藤良三(元駐米大使)

ブックレビュー
高橋和宏(法政大学)

いまを読む5冊
評者:
髙山嘉顕(日本国際問題研究所)
石塚 迅(山梨大学)

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英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト