Vol.91 May/Jun. 2025

Vol91_Htoushi特集◎対米自立を模索する世界

座談会
脱「米国依存」の国際秩序と日本外交
トランプ政権は社会の分断を利用して、国際協調や自由貿易の軸から米国を遠ざけた。それまでの米国の役割はどんなものだったか、市場や金融はトランプ政権をどう変えるのか、見通しが利かない霧の中で、日本はどう考え、どう行動すべきか。
古城佳子(東京大学)
田所昌幸(国際大学)
鶴岡公二(元駐英大使)

 

トランプ脱価値外交に向き合う-一国主義の同盟政策と大国間関係
一国主義的世界観に基づき、経済的利益を優先するトランプ外交。対外交渉における同盟国重視の序列は再編に向かう。
・同盟国に求められる米国労働者への貢献と安保リスクの軽減
・大統領は中ロに対する安全保障面での警戒心が希薄
・西太平洋で新種の戦略的競争が繰り広げられる可能性も
森聡(慶應義塾大学)

トランプ関税交渉と国際通商システムの今後-日本はルールの支配の堅持を基軸とした行動を
トランプ政権に「ディール」狙いの融和政策は効くのか。「自由貿易の旗手」として、あくまでルールベースを貫け。
・ルールに基づいた解決には同志国との連携が必要
・ミドルパワー主導のWTO改革をリードせよ
・米中対立の影響がないCPTPPの拡大を目指せ
川瀬剛志(上智大学)

欧州 自立化への準備と制約要因-ウクライナ、NATO、関税
欧州では対米自立の動きが潮流となりつつある。しかしその実現には多くのハードルがある。
・米軍の関与縮小を前提としたNATOのあり方を模索
・関税は個々の交渉のみならず、システム全体への目配りも重要
・危機に対応する共通インフラを日欧で模索すべし
ルイ・シモン(ブリュッセル自由大学)

ゼレンスキーとトランプの「正念場」-ウクライナ・ロシア首脳の直接交渉ならず
ウクライナとロシアの直接交渉にプーチン大統領は現れず。トランプ大統領の意向に左右される交渉のゆくえは。
・ディール重視の姿勢にゼレンスキー大統領は苦慮
・プーチン大統領は戦争継続で「時間稼ぎ」を図る
・西側諸国が強調して一貫した姿勢を続けることが重要
倉井高志(元駐ウクライナ大使)

台湾 トランプ再選に揺れる世論-「見捨てられ不安」からくる米国不信
「脱米論」は台湾世論の対米信頼度を測るバロメーターだが、トランプ・与野党・中国の動向など複雑な要素が絡む。
・対米信頼度は民進党支持者が高く、国民党支持者は低い
・米国の対中接近と台湾軽視の印象の度合いに左右される
・トランプ個人への不信は根強いが、対米信頼は回復傾向に
渡辺剛(杏林大学)

豪労働党勝利の総選挙と「プランB」
連邦議会選挙で国民は分断に「ノー」を、安保の米国・経済の中国双方を意識した外交は同盟の再構築で変わるか。
・分断狙う保守連合の「敵失」で労働党が地滑り的勝利
・「見捨てられ回避外交」からは対トランプで脱却へ
・「準同盟」日本との新たな同盟関係は可能か
永野隆行(獨協大学)

カナダ外交 リバランスとしてのインド・太平洋シフト
四月の総選挙で勝利したカーニー自由党。新政権の外交課題は対米関係の修復と外交関係の多角化だ。
・ポピュリズムに抗した堅実な政策が評価される
・トランプ政権とは一線を画しつつ、冷静に関係修復を模索
・外交のカギはインド・太平洋諸国との連携
ジョナサン・バークシャー・ミラ(マクドナルド・ローリエ研究所)

先進国離れ」進むブラジルの貿易
経済は好調だが、インフレと高齢化による成長鈍化の課題も。トランプ関税は中国含む新興国貿易をさらに加速させるか。
・「高成長の新興国」の段階は終了した
・ウクライナ戦争と米中摩擦で「一次産品特需」が
・トランプ関税の影響は軽微だが貿易相手国のシフトも
森川央(国際通貨研究所)

FOCUS◎アフリカ開発の新戦略

アフリカ開発を巡る政治力学
経済市場の拡大など成長するアフリカ開発を巡り、各国の動きが活発だ。その力学とTICAD9の課題を見る。
・多くの国が関与を志向、一国の圧倒的影響力が無い状態
・新興ドナーに加え、中国・ロシアも食指を動かす
・マルチラテラルの枠組みで課題解決実現の体制づくりを
遠藤貢(東京大学)

座談会
TICAD9アフリカの未来へのパースペクティブ
国際社会での存在感高まる「若い大陸」アフリカ。長年寄り添った支援を積み上げて、一九九三年以降TICADでも開発をリードする日本が、多様な課題やアクターを包摂し、アフリカとともに飛躍するには。
加留部淳(豊田通商)
白戸圭一(立命館大学)
堀内俊彦(外務省)

◎トレンド2025

戒厳と弾劾 韓国「民主化の終わり」-限界にきている「第六共和国憲法」
「尹戒厳」など韓国政治の混乱の背景には、憲法の制度と政治の機能不全がある。民主化以来の抜本的な改革が必要だ。
・戒厳と弾劾が、憲法の制度趣旨を無視して乱用された
・憲法の制度的欠陥を「ボス政治」、次いで世論がカバー
・社会の分断が欠陥をあらわに。制度自体の修正が急務
木村幹(神戸大学)

追悼フランシスコ教皇
世界平和のため奔走した「牧者」
松本佐保(日本大学)

印パ軍事衝突 停戦後もくすぶる対立の火種
四月のカシミールでのテロ事件で緊張が高まった印パ関係。
軍事衝突から停戦に至る経緯に、危機の構造を探る。
・インドは「民間人の犠牲」を前面に、世論の動員を図る
・相互に報復も、本音では早期停戦を望んでいた
・非軍事的制裁は継続、地域の緊張緩和メカニズムも脆弱
笠井亮平(岐阜女子大学)

AIの国際的課題と日本外交
AI活用のためには、国際的なガバナンスの議論が必須だ。急拡大する議論の現状と日本外交の貢献を語る。
・目的は安全・安心で信頼できるAI開発・実装・利用の実現
・経済安全保障と技術支配の調整の強化も重要
・ルール化は急務。「広島AIプロセス」などでリードを
赤堀毅(外務省)

ミャンマー大地震 混迷極める国内情勢
地震後も内戦は止まらず人道危機が懸念される。軍政と武装勢力、中国の影響力がからみ事態を複雑化させる。
・革命を追求する民主派NUGと軍政との対立は根深い
・反軍勢力は一枚岩でなく、少数民族武装組織の思惑も
・中国が軍政を後押し、権益のため影響力を強めるか
長田紀之(九州大学)

FUCUS◎戦後80年をどう語るか

戦後日本外交の課題と七〇年談話
戦後七〇年談話や安保法制に深く関わった北岡氏。先の戦争と戦後日本の歩みを読み解き、課題を探る。
・七〇年談話で満州事変以降の日本の行動に反省を示す
・戦後日本の経済面における国際協調を評価
・安全保障分野での秩序維持に、より積極的に参画を
北岡伸一(東京大学)

プーチン「戦勝記念式典演説」とウクライナ
独ソ戦戦勝八〇周年演説とウクライナ侵攻時の演説を比較すると方向性や非難の度合いが変わっている。その「真意」とは何か。
・「ネオナチ」はオレンジ革命で意味合いがやや変化した
・八〇周年演説では第二次世界大戦での連合軍の役割にも配慮
・事実の洗い直しによる考察が今後も重要
立石洋子(同志社大学)

「ヤーヌス」と化した中国の対外行動
国際秩序の擁護者か、それとも挑戦者か、トランプ二期政権への対応で中国が世界に向ける「二つの顔」の意味とは何か。
・グローバル・ガバナンスの擁護者・改革者を自称する中国
・戦後国際秩序には台湾の中国への帰属を含むと主張
・しかし米国中心の同盟にはあくまで挑戦する二面性が
杉浦康之(防衛研究所)

バンドン会議から七〇年 グローバル・サウスの起点と日本
第二次大戦後、「南(サウス)」は何と闘い、国際秩序の中でいかなる意味を示してきたのか。
・独立間もない途上国の連帯の契機となったバンドン会議
・脱植民地後は結束緩むが、新興経済大国が台頭
・日本はサウスの声を、国際秩序の再構築に生かす役割を
宮城大蔵(中央大学)

追悼 ジョゼフ・ナイ元米国国防次官補
理論と実務を架橋する「アメリカの世紀」の探訪者
田中明彦(東京大学)

追悼 リチャード・アーミテージ元米国務副長官
強固な日米同盟を築いた立役者
マイケル・グリーン(シドニー大学)

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【書評】
林戴桓(青山学院大学)

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