Vol.84 Mar./Apr. 2024

Vol.84_Hyoshi特集◎問われる国際協力の戦略性
戦略的な「開発協力」とは何か
「世界で尊敬され、好意的に受け入れられる国家・国民であり続ける」。国家安全保障戦略で「国益」と定義されたこの国家目標の実現のために、開発協力は最も適した手段である。日本の国際協力七〇年の歩みを踏まえ、その功績と可能性を論じる。
田中明彦(国際協力機構理事長)

座談会
「包摂性」と「多様性」で世界の分断を乗り越えよ―国際協力に見る日本外交のアイデンティティ
昨年六月に改定された開発協力大綱。改定の狙いとそこで打ち出された新しいアプローチを明らかにしながら、国際協力の戦略性を考察する。対立と分断の時代にこそ、協調へのビジョンが求められる。
大野泉(政策研究大学院大学)
神保謙(慶應義塾大学)
石月英雄(外務省)

存在感増す新興ドナー
国際援助の世界でも新興国が台頭し、南南協力の多国間化も進んでいる。これら新興ドナーと先進国は連携して援助すべきだ。先進国や日本としては、透明性や国際基準への適合を促し、SDGsやFOIPなどの課題につなげる援助も考えうる。
近藤久洋(埼玉大学)

米中対立と一線を画す太平洋島嶼国—日本外交とPALM10の使命は
二〇二二年、ソロモン諸島と中国の安全保障協定締結は、欧米に衝撃を与えた。しかしソロモン諸島は豪州とも同様の協定を締結している。このことは何を意味するのか。米中対立という大国の論理には還元できない、途上国の戦略を読み解く。
小林泉(大阪学院大学)

南アフリカ 経済外交と「非同盟」の論理
電力危機など深刻な問題を抱える南アフリカ経済。その克服には主要な貿易相手である「西側」との関係改善が急務だが、構造的な差別や格差に敏感な「非同盟」の理念がそれを妨げる。日本はこの相克を解きほぐせるか。
牧野久美子(ジェトロ・アジア経済研究所)

OSAで安全保障協力はどう変わるか
ODAではできなかった「軍等を裨益者とする」安全保障協力が始まった。警備艇やレーダーシステムなどの資機材供与が先行し、「次の一手」として軍民共用の空港や港湾を対象とするインフラ整備にも注目が集まる。新しい国際協力の意義と課題を探る。
西田一平太(笹川平和財団)

FOCUS◎ウクライナ戦争三年目の試練

正念場を迎えるロシア・ウクライナ戦争—欧州はウクライナを支えられるのか
ウクライナは弾薬不足で「ロシアに押されている」。だが米国議会は、追加支援予算を可決できない。西側社会のウクライナ支援に足並みの乱れが見られるなか、欧州諸国は「もしトラ」で穴が開いたら埋められるか。日本はどう対応すべきか。どのように貢献できるか。
鶴岡路人(慶應義塾大学)

座談会
「一〇年戦争」がもたらした国際社会の変質
二〇一四年、ロシアによるクリミア併合から丸一〇年。そのとき国際社会は、ロシアの意図を見抜けずウクライナ侵攻につながったと言える。これから世界は「小・特殊軍事作戦」の時代になるのか、ガザ衝突はウクライナ戦争の「映し鏡」なのか。そして、われわれが妥協してはいけない線は何か。
宇山智彦(北海道大学)
神谷万丈(防衛大学校)
国末憲人(東京大学)

日・ウクライナ経済復興推進会議の意義と成果
ロシアによる侵略により、ウクライナの経済・社会基盤は大きく毀損された。ウクライナの将来のためには、さまざまなインフラの再建・整備を含め長期的な復旧・復興支援が不可欠である。自ら「戦後復興」の経験を持つ日本は、この問題に率先して取り組む。
外務省欧州局中・東欧課・ウクライナ経済復興推進室

ロシアの戦争継続を可能にする「縦深性」—制裁対策を「調整」する政策メカニズムと外交
西側からの経済制裁に耐え、戦争を続けるために、ロシアはオペレーション・動員から国内治安維持、経済・財政など多様な政策を調整する体制をもち、一方で地理的に取引相手とのパイプもつながっている。継戦能力は、これらを担う官僚に支えられている。
長谷川雄之(防衛研究所)

特別インタビュー 安保三文書策定一年後の課題

防衛力強化は本当に実現するか—次期戦闘機共同開発と第三国輸出のインパクト
「安保三文書」の閣議決定から一年あまり。「防衛力強化」の実態はどうなっているのか。予算の裏付け、次期戦闘機の共同開発・第三国輸出など、今まさに進行している課題を中心に、与党協議のキーマンである小野寺氏に聞いた。
小野寺五典(自民党安全保障調査会長、元防衛大臣)

トレンド2024

米大統領選 両陣営が抱える不安
「トランプ一強」を印象づけた共和党候補者指名争い。だが、「トランプ党」化した共和党に反発して一部の有権者が離反する動きも起きている。対するバイデンも政権運営は手堅いが、高齢やガザ情勢への対応に不安を抱えている。
高野遼(朝日新聞)

ガザ紛争と米・イスラエル「特別な関係」の政治力学
「米国は何があってもイスラエルの生存を守る」――多くの人が漠然と感じる両国の親密さは、実は制度的基盤を持たない、政治状況に依存した関係にすぎない。米・イスラエル関係の歴史的変遷を踏まえ、両国間の友好と緊張の実像を読み解く。
松田拓也(東京大学)

プーチン五選 ナワリヌイ最後の声も届かず
大統領選で華々しく五選を果たしたプーチン氏。それとは対照的に、今年二月、ロシア国内におけるプーチン政権最大の批判者であったナワリヌイ氏が獄中で命を落とした。波乱に満ちたその足跡を振り返りつつ、ロシアにおける反体制派のありようを読み解く。
大前仁(毎日新聞)

生成AIと利益誘導のインドネシア大統領選挙—2024選挙イヤーに示唆するものは
二〇二四年選挙イヤーで世界的に注目を集めた選挙は、ジョコ大統領が肩入れするブラボウォ国防相の大勝利。生成AIのイメージ戦略と利益誘導が合体した、古くて新しい選挙がインドネシア政治にもたらしたのは、結局のところ「低レベル民主主義」の継続であった。
本名純(立命館大学)

ミャンマーの古くて新しい内戦—その多元性と持続性
昨年一〇月、反政府武装勢力が攻勢をかけ、国軍による統治が揺らぐミャンマー。「国軍対民主化勢力」「多数派民族ナショナリズム対少数民族の自決権」という独立来の対立を底流に内戦が繰り返されてきた同国の現状を、歴史的視点を踏まえて読み解く。
長田紀之(ジェトロ・アジア経済研究所)

北朝鮮「体制永続化」に向けた政策変更
軍事力強化を図る金正恩は、自らの女児を表舞台に登場させ、父や祖父の政策を否定した。韓国を敵国とみなし「新冷戦」構造に自らを位置付け、ロシア・中国両方と関係する「保険」をかける姿は、体制永続化への注力とうかがえる。
礒﨑敦仁(慶應義塾大学)

厳格な「選挙管理」が社会を分断するイラン
保守派が大勝したイランの国会選挙と専門家会議選挙。護憲評議会を中心に、革命の原理を重視する勢力が改革派の立候補者を排除したことで、社会の不満を回収する政治的回路は失われつつある。外交状況も踏まえ、イラン政治の危機を読み解く。
坂梨祥(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)

リビア 国家再建への遠い道のり
二〇一一年のカダフィ体制崩壊後、混乱が続くリビア。東西を二分する政治勢力が存在し、そこに外国や外部勢力が複雑に絡み合う政治情勢にあって、いかに統一と安定を回復させるか。大使館退避中にも繰り返し現地に足を運んだ外交官が読み解く。
天寺祐樹(在リビア日本大使館・リビア特別調整官)

追悼
追悼 五百旗頭真・神戸大学名誉教授
「いま、この世界を生きる」人々に尽くした歴史学者
井上正也(慶應義塾大学)

連載

外交極秘解除文書15 冷戦終結 東欧民主化支援と日本外交
東欧への積極的援助 国際協力構想は価値観外交のルーツに―1990年海部首相訪欧の成果と湾岸戦争
武田悠(広島市立大学)

Book Review
ジャック・ラクルシエール・著『ケベックの歴史』
評者 小川浩之(東京大学)

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英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト