Vol.75 Sep./Oct. 2022

Vol75_Hyoushi特集◎グローバル・サウスからみた世界

鼎談
なぜいまグローバル・サウスを論じるのか
欧米でも、中国・ロシアでもなく-。大国の論理で、世界が分断に向かおうとしている現在、人口として、経済的パワーとして、秩序構築の当事者として、多国間の力学が重層的に作用しあう新興国・途上国の存在に改めて目を向けるべきだろう。
遠藤 貢(東京大学)
中尾武彦(みずほリサーチ&テクノロジーズ)
川島 真(東京大学)
 

サウスの声を体現する国連改革を
多くの新興国・途上国は、ロシアの侵略行為を非難する一方、欧米主導の制裁外交にも不満を持つ。途上国を含めた国際世論の吸い上げ、よりよい方向性を見出すのは、国連の本来の役割だろう。その国連が機能不全であってよいわけがない。日本はいまこそ安保理改革に臨むべきである。
北岡伸一(東京大学)

中国「一帯一路」開発協力戦略の転換
コロナやウクライナ侵攻で苦境の新興国にとって中国は「頼りになる存在」だが、開発協力戦略は「グローバル開発構想」に転換している。背景には新興国の債務問題と「質」への転化志向があった。新たな開発協力戦略とは。経済連携スールの展開は。
北野尚宏(早稲田大学)

米国と東南アジア すれ違いの構図-米中競争と南北問題の間で
失望が渦巻いたという米ASEAN首脳会議。すれ違いには関係性への認識の違いがあった。「中所得の罠」から抜け出す経済成長が優先、主導権を取れない安保体制には組み込まれたくない。東南アジア諸国が希望を見出す先とは?
相澤伸広(九州大学)

ASEANの経済基盤と「自由で開かれたインド太平洋」
財政基盤が脆弱なASEAN諸国は開発資金を外資に依存。「一帯一路」などの対中国債務を拡大させている。先進国並みの経済水準を追う先行諸国も、再配分プロセスの問題を抱えている。体制間競争となりかねない争点を、いかに解決させるか。
三重野文晴(京都大学)

米中の狭間で隘路に陥るパキスタン-「一帯一路」、タリバン復権、ウクライナ戦争
対テロ戦争における米国のパートナーであり、近年は中国との関係深化が注目されるパキスタン。米中両にらみの戦略が奏功しているようにみえるが、実態は異なる。中国との経済回廊、アフガニスタンをめぐる米国との関係を軸に、パキスタン外交が直面する困難を考察する。
栗田真広(防衛研究所)

サウジアラビアMBS体制「安泰」の構造-なぜ「ビジョン2030」が未達成でも危機は生じないのか
いまから6年前、「脱石油」にサウジの将来を見出した「ビジョン2030」が発表された。だがその進捗は芳しくない。にもかかわらず、主導した皇太子の座は「安泰」に見える。主要政策の停滞が権力基盤に影響しないサウジアラビア政治のメカニズムを読み解く。
松尾昌樹(宇都宮大学)

アフリカ諸国はロシアに忖度しているのか-非同盟運動と合理的な「あいまい戦略」
ウクライナ侵攻に対する国連の対ロシア非難決議に、同調したアフリカの国々は少なかった。だが、ロシアに追随するというよりも欧米への警戒から非同盟主義への回帰も見える。米・ロの綱引きが強まるなか、アフリカ諸国はどう出るのか。
武内進一(東京外国語大学)

追悼
エリザベス英国女王
国際政治におけるソフト外交の体現者
君塚直隆(関東学院大学)

ゴルバチョフ元ソ連共産党書記長
ソ連解体をめぐって揺れる内外の評価
溝口修平(法政大学)

◎トレンド2022

失地回復を目指すウクライナ
伊藤嘉彦(拓殖大学)

戦争に順応するロシア社会-世論調査にみるプーチン支持の構造
長びく戦争と経済制裁の影響で、ロシアの人々はやがて政権への批判を強めるだろう-そのような欧米の「期待」は、実態からかけ離れている。クリミア併合のような熱狂はないものの、世論調査からは、ロシア社会の「軍事作戦」への順応と、プーチン体制への強い支持が読み取れる。
駒木明義(朝日新聞)

ペロシ訪台で顕在化した台湾海峡のリスク-中国の対台湾軍事圧力はどう強まるか
ペロシ訪台は、台湾海峡における緊張の前倒しに過ぎない。総書記三選後の習近平が、総統選挙に突入する台湾にかける圧力は、外交的に対応可能なレベルだろうが、最悪シナリオは、核軍拡による「強制的平和統一」だ。日本においても防衛力の抜本的強化などが問われる。
松田康博(東京大学)

複層的対立が影を落とすNPT-運用検討会議の不調と今後のプロセス
最終文書の発表に至らなかったNPT運用会議。核抑止論を訴える国々の主張が鋭く対立した。ロシアの核使用言明、ザポリージャ原発の攻防と核の脅威が増大する中での次のプロセスはどうなる。
秋山信将(一橋大学)

機会主義の政治家は「鉄の女」になれるか-英・トラス新政権発足の政治力学と課題
「鉄の女」サッチャー氏を意識した立居振舞の一方で、状況に応じて立場を変えながら、ついに首相の座を射止めたトラス氏。インフレ対策と財源問題、EUとの緊張関係解消など、支持基盤である党内右派とどのように折り合いをつけるか。次の総選挙に向けて、個人的人気の上昇も大きな課題だ。
力久昌幸(同志社大学)

総選挙から一年 政治危機続くイラク-カギ握るサドル派の思惑
8月末のバグダッドで、サドル派支持勢力と治安部隊の大規模な衝突が発生した。昨年の総選挙から約一年が経過しても新政権が発足しない危機的状況をどう捉えるか。サドル派の影響力、分裂するシーア派勢力の動向を中心に、複雑な政治状況を読み解く。
山尾 大(九州大学)

「史上最少」のTICAD8 変わるべき日本の関与
新型コロナ感染防止で規模が縮小され、岸田首相も感染でリモート参加のTICAD8。米ロのアフリカ外交合戦が激しくなるなか、TICADは西欧諸国の一員としての紐帯が求められた。日本企業への梃子入れなど、発想の転換も求められる。
平野克己(ジェトロ・アジア経済研究所)

◎around the world
ケニア 2022年大統領選にみる政治変化
津田みわ(ジェトロ・アジア経済研究所)

特別企画◎安倍外交を振り返る
「チーム安倍」が描いたインド太平洋の大戦略-力の立場に根ざした対中政策
今世紀に入り、日本外交の焦点の一つは、大国化する中国にどう向き合うかであった。それまでのアプローチから脱却し、力を背景に、戦略的に友好関係を構築する-日本外交の新しい戦略が奏功するプロセスを、欧州の研究者の視点から読み解く。
ジュリオ・プリエセ(オックスフォード大学)

-安倍外交の収支
日本の存在感高めた包摂性
伊藤俊行(読売新聞)

連載

外務省だより

駐日大使は語る
アイルランド番外編
ミホル・マーティン首相 訪日の成果
前号掲載インタビュー後の7月19~21日、アイルランドのミホル・マーティン首相が訪日した。駐日大使離任を前にして、首相訪日という大仕事を終えられた大使に、あらためて話を聞いた。
ポール・カヴァナ(前・駐日アイルランド大使)

チュニジア共和国番外編
開催国チュニジア 実り多きTICAD8
73号に掲載したインタビュー後の8月27~28日、チュニジアで第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が開催された。会議の成果や日・アフリカ関係の展望について、エミール大使に話を聞いた。
モハメッド・エルーミ(駐日チュニジア共和国大使)

外交極秘解除文書 連載⑧
国連での地位回復を求めて-旧敵国条項とドイツ再統一
山口 航(帝京大学)

外交最前線18
東京2020 「おもてなし」を尽くす国旗サービス
渡辺剛彦(アテナ)

ブックレビュー
小川浩之(東京大学)

いまを読む5冊
評者:向 和歌奈(亜細亜大学)

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英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト