Vol.74 Jul./Aug. 2022

Vol.74_Hyoushi
特集◎長引く戦争 広がる波紋

消耗戦へ回帰する「現代の戦争」
-軍事思想から見たロシア・ウクライナ戦争
冷戦終結後、ロシアの軍事戦略は多様化し、近年は情報戦を中心に非軍事的手段を駆使した「グレーゾーン」の戦争が重視されてきた。しかし、いま我々の眼前で展開されているのは、兵員や兵器の数がものを言う古典的な戦争の復活である。この現実はなぜ生まれ、何を意味しているのか。
日本への教訓を含めて考察する。
小泉 悠(東京大学)
 

「戦争の終わり方」を考える
戦争当事国は根本的解決の「極」と妥協的和平の「極」、双方のあいだを揺れ動く。即時和平が絶対的に好ましいとは限らない。
停戦協議が始まるタイミングは、仲介者は誰か。戦争と和平のメカニズムから「終わり方」を探る。
千々和泰明(防衛研究所)

「漸進」を選択したロシア軍の攻勢-依然として遠い停戦の前提
伊藤嘉彦(拓殖大学)

鼎談
混乱する新興国経済 世界の二分化を回避できるか
戦争の長期化で深刻化するエネルギー事情。欧州はこの冬、電力配給のような「準戦時体制」をとるのか。世界的なインフレの下、コロナ禍からの回復が遅れる新興国・途上国経済はどうなるか。経済的混乱がもたらす世界の二分化の言説に対し、われわれはどのような対抗策を持ちえるのか。三人の専門家が語る。
伊藤さゆり(ニッセイ基礎研究所)
今井宏平(ジェトロ・アジア経済研究所)
東野篤子(筑波大学)

損得勘定で決まる?新興国の態度
西側とロシアの攻防が世界に波及する経路とは。各国の対ロシア貿易や資源自給率を分析することで、新興国の経済への影響を読み解いてみると、「損得勘定」が、新興国各国の西側やロシアへの態度となっていることに留意すべきだ。
高山武士(ニッセイ基礎研究所)

バイデン訪問 サウジ優位の「収支決算」
国内の批判を振り切って初訪問したバイデン大統領。その狙いは、石油増産要請に加え、中国への対抗を念頭に置いた、次世代通信規格やインフラ支援協力にも及んでいる。大規模な投資案件をはじめ、サウジ側の関心も高いが、肝心の石油増産実現は不透明だ。
近藤重人(日本エネルギ経済研究所中東研究センター)

国際人道法と国際刑事法は有効に働くか-戦争の法と侵略国の法的責任
「人道的介入」のための武力行使は、国際法上正当性があるといえるのか。果たして傭兵は戦争捕虜として扱われるのか、戦争犯罪は国際刑事裁判所で追求できるか。「戦争の法」の原則と、その限界を明らかにする。
坂本正幸(法政大学)

FOCUS◎インド太平洋をめぐる新展開

「緩やかな多国間主義」の時代-激変する日本外交の底流
参院選に勝利し、いよいよ岸田外交が本格化する。国際秩序の混迷期だからこそ、日米同盟だけに寄り掛かるのではなく、多層的な多国間外交を展開したい。すでに重要な布石は打たれている。新たな外交戦略の見取り図を示す。
薬師寺克行(東洋大学)

鼎談
G7とクアッド 多国間外交の裾野を広げる日本
5月から6月にかけてクアッドとG7が行われた。大国間外交の枠組みと4ヵ国関係の枠組み、それぞれの機能と課題を解き明かしながら、重層化していく日本外交の可能性を考える。
伊藤 融(防衛大学校)
佐竹知彦(防衛研究所)
森 聡(慶應義塾大学)

日米豪印(クアッド)首脳会合の意義と成果
「自由で開かれたインド太平洋」という目標を共有する4ヵ国。米国のコミットメントを確保しつつ、地域情勢、ワクチン供与、
開発金融、気候変動、宇宙など、さまざまな分野で具体的な協力を積み重ねるこの枠組みは、日本外交に何をもたらすか。
遠藤和也(外務省)

「台湾海峡の平和と安定」をめぐる米中台関係と日本-動揺する「1972年体制」の含意
1972年2月、ニクソンが訪中して発表された上海コミュニケは、中国側の「台湾は中国の一部分」であり「国内問題」という主張に対し、米国側は「平和的解決」という重大な留保を示している。それから50年。大国化する中国の攻勢によって台湾をめぐる「留保」が現実味を帯びるいま、改めてその意味を考える。
福田 円(法政大学)

韓国尹錫悦政権
「グローバル中軸国家」は日米韓協力を回復させるか
自由や人権など、価値を重視する尹政権の外交構想。北朝鮮問題が最優先だった文政権とは異なり、日米韓協力の重視や、インド太平洋への高い関心など、日本外交とも共鳴しそうだ。しかし日韓二国間関係は長期戦になりそうだ。まずは首脳同士の信頼構築が課題となる。
西野純也(慶應義塾大学)

around the world

米連邦最高裁 中絶禁止へと舵を切る
大林啓吾(慶應義塾大学)

コロンビア初の左派政権誕生
幡谷則子(上智大学)

スリランカ ラ-ジャパクサ一族支配の崩壊
荒井悦代(アジア経済研究所)

トレンド2022

英・「ポピュリスト宰相」が倒れるまで-ジョンソン首相の「通信簿」
ポピュリズム的統治が通用しなくなった宰相が、引きずり下ろされた格好となった辞任劇。EU離脱に伴いインド太平洋で関係強化に動き、ウクライナ戦争ではリベラル国際秩序を擁護する姿勢を見せたが、「治世」全体を見ると、その評価は二分される。
池本大輔(明治学院大学)

経済安全保障推進法の概要と企業への影響
半導体や医薬品などの重要物資を安定的に確保し、基幹インフラへの攻撃を防御する経済安全保障推進法。どの対象にどのような規制がかかるのか、企業はどのように対応する必要があるのか、経済安全保障の議論の前提を知ろう。
浅井敏雄(UniLaw企業法務研究所)

混迷続くミャンマーの現在地
クーデターから1年半。軍の実効支配に対する反対運動は暴力化し、民間人の死者2000人超、難民も70万人を超え、国は荒れている。軍の実効支配と抵抗勢力とのせめぎ合いに、外交はどのような役割を果たせるか。
中西嘉宏(京都大学)

太平洋島嶼国をめぐる米中対立
王毅外相の南太平洋諸国10ヵ国訪問に、中国による勢力伸長との安全保障上の警戒感が広がった。豪州と島嶼諸国の溝はどうしてできたのか、米国の関与強化で米中覇権争いは激化するのか。大国との距離を巧みにはかる島嶼国外交は転機にあるのか。
黒崎岳大(東海大学)

東ティモール独立回復20年の苦闘
21世紀最初の独立国、東ティモール。独立に至るまでの困難な歩み、開発と国民統合への課題、現在までの日本の貢献と強まる中国の影響力などを踏まえ、「小国」としての生き残り戦略を読み解く。
山田 満(早稲田大学)

連載

駐日大使は語る④
熟練外交官が見た 日・アイルランド関係の風景
駐日大使は、各国の正式代表として日本に常駐する唯一の存在。大使の目に、日本外交はどう映るのか。国連安保理非常任理事国を務めるアイルランドのカヴァナ大使に聞く。
ポール・カヴァナ(駐日アイルランド大使)

外交極秘解除文書 連載⑦
佐藤首相を動かした政治ブレーン(下)-官邸と外務省を媒介した「基地研」の存在感
中島琢磨(九州大学)

インフォメーション

ブックレビュー
大庭三枝(神奈川大学)

いまを読む5冊
評者:
石塚智佐(東洋大学)

新刊案内

英文目次

編集後記

イン・アンド・アウト