第4回「外交」論文コンテスト 発表と講評

コンテストへの多数のご応募ありがとうございました。厳正なる審査の結果、入賞者は以下の方々に決まりました。

■最優秀賞(賞状、賞金5万円)
該当作品なし

■優秀賞(賞状、賞金3万円)
柳沢崇文(会社員)
「普通の国」としての「日本らしさ」の発信
生駒知基(東京大学)
ユネスコ記憶遺産への日本の挑戦

■佳作(賞状、賞金2万円)
久野千尋(東京都庁)
日本と後世の社会の繁栄に資する日本の外交努力について
牧野桃子(上智大学)
非常任理事国として日本に求められる難民支援
小松優也(中央大学)
「核の傘」の受益国連携体制による核兵器廃絶への道
 

論文コンテスト講評

 
 論文コンテストへのたくさんのご応募に、心よりお礼を申し上げる。審査は編集部による一次審査を経て最終候補に残った作品を、各審査員が個別に評価したうえで結果を持ち寄り、最終的には合議によって入賞作を決定した。多様なテーマを扱った力作も多く、審査にも熱がこもった。
 その結果、最優秀賞の該当作品なしとした。最優秀論文は「外交」誌への掲載の対象となる。もちろん研究者やジャーナリスト、実務家といった弊誌の通常の執筆者と同様の基準で判断するわけではないが、最優秀賞作品にはテーマの重要性、視点のユニークさ、丁寧で正確なリサーチ、大胆な提言、論理的で説得力のある表現など、どこかに光る要素があり、読者の印象に残る作品であってほしい、というのが審査員の判断であり、その基準に届く作品は残念ながら今回ないという結論であった。ただし最終候補に残った作品の多くが「もう一歩」のレベルにまで到達していることに、今後の可能性を感じたのもまた事実である。応募してくださった皆さん、あるいは関心を持ってくださった皆さんのさらなるチャレンジを待ちたいと思った次第である。
 優秀賞には柳沢崇文氏と生駒知基氏の論文が選ばれた。柳沢論文は、ともすれば安全保障の観点に傾きがちな「普通の国」論を再構成し、文化外交など日本独自のコンテンツを中心に外交の役割を再認識された。日本外交のバランスある発展を、説得力を持って論じており、高い評価を得た。個々の政策については、もう少し新しい情報や視点が加わると、より刺激が増すであろう。
 生駒論文はまず、ユネスコ記憶遺産というホットな論点を取り上げた点で関心を引いた。南京事件やシベリア抑留まで分析の射程を広げたことで、日本の登録問題を立体的に考察しやすくなっている。「記憶をめぐる政治」の序章的な面白味を感じさせた一方、間口を広げた分、個々の論点への言及がやや物足りなく感じた。1次資料への積極的なアクセスがあれば、記述により厚みが増すだろう。
 そのほかに、佳作として3作品を選んだ。久野千尋氏は、自治体職員らしく、自治体の先進的事業として取り組まれている水素エネルギーを外交ツールとして活用することを提言した。グローバル仮題、科学技術、国際世論といった要素を絡めた外交論は具体的だが、他方で既存の政策紹介が多く、もう少しオリジナリティがほしかった。
 牧野桃子氏は、難民問題という現在の世界が直面する最重要テーマに取り組んだ。参考文献もよく渉猟されており、事実の認定や解釈に信頼がおける。惜しむらくは、目の前の難民への対応を含め、もう少し踏み込んだ提言があれば、議論を喚起できたであろう。
 小松優也氏の論文は、「核の傘」の受益国が連帯して核軍縮を目指すという発想がユニークであるが、そこからの展開がもう一歩であった。米ロ関係を仲介する日本というイメージが安倍政権の対ロ外交とどう絡むかなど、現実政治への補助線があると、臨場感も増したように思える。
 応募作品全体を見ると、学生からの投稿が8割程度を占め、高校生からの投稿もあった。テーマとしては、すでに紹介したもの以外にも、中国(南シナ海)、パブリック・ディプロマシー、対中東外交、原発廃炉と科学技術、外国語教育、人材育成など、多岐にわたった。
 このコンテストが、今後、外交に関心を持つ人々の交流・発信の場として発展していくことを期待したい。

審査員 外交編集委員会
中西寛、長有紀枝、春原剛、高原明生
高橋栄一(都市出版株式会社)